文章術


実例を使って文章術をわかりやすく簡単に解説します。
メールやブログなど基本的なことから、小説の方法論まで考えます。

物語の方法論


全体としての作品の考え方は、臨機応変なところがあります。
主人公の造形(キャラ)からはいる場合、世界観からはいる場合……
ここでは登場人物や世界観は置いておいて、純粋に物語(ストーリー)の内容を考えてみます。
登場人物・設定・世界観などは先にあっても構いませんし、物語のあとからでも構いません。
あくまでひとつの方法論なので、参考程度にしてください。

1. 全体像を方向づけ、最初と最後を決める


まず、おおまかな全体像が必要です。
ざっくりいって、全体的にどんな風にしたいのか? ということです。
以下、具体例を使っていきます。

廃院に閉じ込められて脱出するまでの物語
同時に、テーマも必要です。
ここで言うテーマにはジャンル的な方向性も含めます。

・閉じ込められたときの人間性を描く
・心理ホラー
・謎めいたサスペンス
などなど……
方向性がうやむやのまま進めると、こわくしたらいいのか、感動させたらいいのか、表現や演出の力点が定まらなくなってしまいます。
必要なシーン、必要でないシーン、必要な登場人物、必要でない登場人物なども変わってきます。
舞台や設定がまったく同じでも、方向性によって全然違う物語になるので、なにを表現したいのか、どういう雰囲気にしたいのか、しっかりと考えておきます。

全体像が見えたら、最初と最後くらいは決めておくといいでしょう。

(はじめ)
仲良し四人組が探検気分で廃院に忍び込むが、古い鉄製のドアが壊れて出られなくなる
(おわり)
仲間割れが起きて先に脱出した者があとの者を閉じ込めてしまう
最後を決めておく利点は、途中で迷ってもとにかくそこへ持っていけばいいのだ、という地点が見えていることです。
また、最後まで持っていく過程で必要な情報とそうでないものがしぼられてきます。
最後を決めておかないと、どんどん脱線していって、収拾がつかなくなる可能性があります。

2. エピソードを考え、合理化する


スタート地点とゴールは決まりました。
あとはこの間に線を通して自然につなげればいいわけです。

まず、最初に思いつく限りのエピソードを羅列してしまいます。
このとき、エピソードが起こる順番などは気にしなくて構いません。
とにかくありったけのアイデアです。
あとからアイデアとアイデアがくっついて化学反応を起こすこともあるので、どんなにつまらない思いつきでもメモしておきます。

・けんかが起きる
・ひとりだけはぐれる
・誰か他の人物がつい最近いた形跡を見つける
・けがをしてその場を動けなくなる
などなど……
エピソードは順次追加しつつ、同時に合理化を進めます。

合理化というのは、なぜ? なんのために? ということです。
けんかというエピソードそのものはいいとしても、なぜそんなことになるのか? また、なんのためにそんなエピソードが必要なのか?

小説というのは合理化の積み重ねです。
朝から頭が痛かったとか、家族構成とか、実際には現実的で日常的でも、あとから意味を持ってでもこない限りわざわざ書かないのが普通だからです。
きちんと合理化されていない作品は、なんのためにあるのかよくわからないシーンが混じってしまい、ちぐはぐになったり、無駄が多くなってしまいます。
まったく生かされない設定が残ってしまったり、存在感のない登場人物が出たりもします。
逆にいうと、きちんと意味と目的のあることを中心に書きます。

やり方としては、マインドマップと似ていますが、関係のある項目同士を線でつなげていろいろな要素を追加していくといいでしょう。
手書きで絵のように自由に線を引いたりしながら図にしていくのがおすすめです。

けんかが起きる ―― 探索の方針で意見がわかれるため ―― 二組にわかれてしまう ―― どちらかで事故が起きる ―― 老朽化した床が崩れるから ―― けがで動けなくなる……
実際にはひとつの項目からいくつも線をひいて蜘蛛の巣のようにし、複数の要素をつなげたり、別の展開の可能性も考えてみます。
このようにしていろいろなアイデアや思いつきをつなげていきます。
最終的には取捨選択が行われ、ある程度は没になるとしても、ひとりブレインストーミングともいえるこの作業は効果的です。

また、こんなふうに合理化しているうちに矛盾も明らかになってきます。
たとえば、設定では仲良し四人組だったはずなのに、けんかになるだろうか? のように。
そうしたら、矛盾を自然に解決する方法を新たに考えるとか、設定やエピソードを見直すなどの作業をすればいいわけです。
こういう試行錯誤を繰り返して、物語は自然に合理化されていきます。

3. 時系列に並べ、分量を想定する


合理化があらかた完了し、全体の流れがはっきりしてきたら、時系列にします。

時間 場所 内容 枚数
1. 侵入直後(16:00) 入口付近 鉄扉が壊れ、動揺がひろがる 10枚
2. やや後(16:30) 地下室 最近人のいた形跡を発見し危険を予感する 20枚
3. 日没間近(17:00) 一階裏口 焦りはじめ、方針をめぐってけんかになる 15枚
あくまで例ですが、こんなふうに数字を振っていって、ついでに分量のイメージも持っておきます。
考えている段階では抽象的になりがちですが、あるエピソードがいつ頃、どこで起こるのか、ということもある程度はっきりさせておきます。
時間と場所を実際の作品のなかで記述することはなくても、舞台裏として決めておくと混乱せずにすみます。

また、分量のイメージを持っておくと、あまり重要でないシーンを延々書いてしまうとか、重要なシーンをさらっと流してしまうとか、そういうことが防げます。
盛りあがるところが少ないとか、会話が多すぎるとか、そういったこともわかってきます。
最終的な分量も見え、計画どおりの長さなのか、長すぎるのか、短すぎるのか、少し予測がつきます。

時系列としてはこうなのだが、演出上書く順番は異なるという場合も、その両方を並べて整理してみます。
特に、演出の観点から時系列をねじ曲げて書く場合、表現の可能性を探るために、いろいろな順番を考慮してみるといいでしょう。

結末から書いて、回想にする …… その効果は?
クライマックスから書いて、時系列の頭に戻る …… その効果は?
などのように。

ちなみに、時系列を考える作業と、章立てを考える作業は別です。
章立ては、物語全体を大きくわけてメリハリのつくところ、場所や時間の移動があるところ、分量的に妥当と思えるところ、などとするのが普通です。

物語の創造は決して難しくありませんが、あまり理解されていず、しかし重要なポイントは合理化です。
そこさえ押さえておけば、偶然に支配されている、無駄が多い、意味がよくわからない、そんな失敗はある程度防げます。
ぜひ楽しんで考えてみてください。